住まいの場所を聞くと集合住宅の一番近い棟を指しているので、正直、「近くて助かった!」と思った。
私:「こっちの方でいいんですね?」
ヨッパーA :「そう、そう。いや〜、迷惑かけるね〜。」
私:「別に近いんだから構いませんよ。」
ヨッパーA :「ところでさ〜。」
私:「はい。」
ヨッパーA :「おたく、どちら様?」
私:「いやっ、あの〜、ただの通りすがりの者です。」
ヨッパーA :「そう。いや〜、悪いね。見ず知らずの人にここまでしてもらって…」
私:「別に大したことではありませんから」
この公団住宅は古く、いわゆる「高度経済成長期」に建てられたものである。よって、築50年以上は経過している。前部で何棟の集合住宅があるのかは分からないのだが、おそらく30棟近くあるのではないかと思われる。
また、棟の大きさも2、3種類ほどあるようだが、私の勘違いでなければどれも5階建てだったように記憶している。もちろん、50年以上前のものなのでエレベーターなどは付いていない。
標準的な棟で、確か、階段は4つほどあり、それぞれ独立していて連絡しあってはいない。つまり、階段を登っていくと各階の左右に住居が1つずつあり、1つの階段につき10世帯分の住居がある形になる。私は「一番上だったらちょっと厄介だな〜」なんて思っていた。そして、か200mも歩かないうちに、その人の住まいのある階段のところまで来たのである。
ヨッパーA :「あ〜、ここ、ここ!ここだから。いや〜、お世話になりました。じゃあ…」
私:「いやっ、お住まいは何階なんですか?」
ヨッパーA :「私?住まい?1階、1階。」
私:「お名前は?」
ヨッパーA :「○○」
1階にある住居にしても、階段を5段ほど上がらないといけない。私は「ちょっと待っていてください」といって、1階の2つある住居の表札を確認してみると「○○」という表札になっていたので、ブザーを押してみたが全く反応がなかった。「独り暮らしなのかな〜」などと思っていると自転車が倒れる音がしたので慌てて階段を下りると、生垣の中に上半身が半分ほど入れるようにして倒れているのである。慌てて起こしたのだが、少し出血している。ただ、擦り傷程度だったので助かった。
私:「大丈夫ですか?」
ヨッパーA :「全然、平気、平気!」
私:「じゃあ、おうちに入りましょう!」
と言って、その人を抱えながら階段を5段ほど登った。その男性はポケットから鍵を取り出したのだが、酔っぱらっているのでまともに鍵を鍵穴に差し込める状態ではなかった。私は、「ちょっと貸してください」と言って男性から鍵を取り玄関のドアをあけ、その人をとりあえず住まいの中に入れた次第である。向こうも、「じゃあ、済みませんでした」言ってドアを閉めようとしたので、もちろん間違っても玄関より中に入り込むわけにもいかなく「気を付けてください!」と言ってその場を後にした次第である。あの調子だとしっかりと布団の中に入れたかどうかは疑わしいが、後は本人に任せるより仕方がない。私も「やれやれ」と思いながら帰宅の途についた。