■ ちょこっと後悔 ■
さて、別荘の持ち主の先輩が在宅しているにしてもしていないにしても「手ぶらではな…」と思った。在宅していれば、お茶くらいはご馳走になるだろうし、在宅していなくても家の周りを少し散策させてもらって小一時間くらいは自然の中に身を置こうと考えていた。よって、在宅していれば直接渡し、不在の場合には、メモと共に玄関先くらいに差し入れを置いていくつもりでいた。
まあ、「気持ち」なのだから何でもよいわけで、しばらく会っていないとは言っても向こうも私の経済事情は十分に理解しているだろうから、コンビにあたりでちょっとした甘いものを買っていっても「気を使ってくれて悪いな〜」と言ってくれるはずである。
ただ、私の方も「少し格好をつけたい」というところもあったので、「え〜と、何を買っていこうかな?」などと迷うことはなく、夏なのだからビール以外に頭になかった。「酒好き」なことは学生時代から十分に理解していたし、お互いに社会人になってからも何回も酒を酌み交わしている。
よく、コンビニでも売られているような6缶が1パックになったものを2パックくらい買っていってもよかったのだろうが、久し振りに会うということもあり「どうせ買うんだったら1ケースくらいは買っていかないとな〜」と思っていた。もちろん、東京のディスカウント店で買い求めるのが最も安い方法なのだろうが、さすがにその重たいケースを電車に持ち込む気にはなれなかった。よって、「駅前だったら酒屋くらいはあるだろう」くらいに考えていた。
事実、小淵沢の駅から車で1分くらい走ったところで350mlのスーパードライを1ケース購入したのだが、しばらく酒とは縁遠くなっていて、飲んでいるときでもビールなどという高級品は滅多に口にすることはなく、そのほとんどは「第3のビール」と言われる発泡酒だったので、ビールの値段にはすっかり鈍感(insensitive)になっていた。よって、1ケースの値段がいくらするかなど全く考えていなかったわけである。
店主の口から発せられた「5千9百…」という数字を聞いている間は、「そんなに高かったか〜。車のレンタル料よりも高いじゃないか!」とすっかり全身が金縛りとなり思考停止(brain freeze)状態に陥った。しかし、「男に二言はない」である。「そんな金額、へでもない」という感じで支払いを済ませて店を出たのだが、車の中で財布に残っている千円札を「え〜と、1枚、2枚、…」としっかりと確認しなければならなかったのも事実である。