目の前にいる伯母の口から「だれ?分からん!」と言われるのも無理はない。最後にあったのは、おそらく25年以上前のことである。ちょっと記憶も定かでないのだが、いとこの結婚式 (wedding) で東京に伯母が出てきて以来かもしれない。年齢的に70歳から80歳であれば、また状況は違うのかもしれないが、もう伯母は100歳を超えている。
すぐ横に腰を下ろした私は、きょとんとしている伯母に自分の名前を「〜です」と告げた。すると「まあ〜、〜ちゃん、よく来てくれたわ!」と大喜びして両手を差し出してきたのである。私は、黒い大きなシミ (chloasma) が目立ち指の骨の形がはっきりと分かるようになった伯母の手を握り締めた。
少し会話を続けていると、脇にいた介護士さんは「じゃあ、私は失礼します。」と言ってその場を離れていった。介護士さんがいたのでちょっと我慢していたのだが、長い間疎遠 (long silence) にして申し訳ないという気持ちと、小さくなった伯母の姿に亡き祖母や父親の姿が重なってきて、私の目からはとめどもなく涙があふれ出てきた。
・通路にあるソファに座る伯母
施設はかなり広々としていて、部屋の前の通路も「自動車がすれ違えるのでは…」と思えるほどの広さがある。エレベーターなども、ストレッチャーがそのまま入るくらいで「元は病院なのかな?」という感じがしないでもない。写真の奥の方では入所者が集まってテレビを楽しんでいた。