麻酔の担当医は、親指を中にして指を握っているために少し膨れた静脈をちょんちょんとたたいて「この辺かな?」と言うと、アルコールで湿ったコットンで消毒をした。そして、「じゃあ、点滴用の針を入れていきますので、ちょっとチクっとします!」と言いながら、アルコールで消毒した部分に針を近づけていった。
私は、もちろんしょっちゅう腕に針を刺しているわけではないが、今までにも何回となく経験していることなので特に緊張することなく針先 (needle tip) を見つめていた。ただ、ちょっと素人なりに気になったのが、その針の角度である。「静脈へ入れるのだからもう少し寝かせてもいいのでは…」と思ったのも正直なところである。
針先が皮膚に入った瞬間は、当然のことながら痛みが発生する。神経によってその刺激 (stimulation) が脳に伝わったわけだから、いたって正常な反応である。そして、今までの経験ではその痛みはすぐに治まり針が静脈に入っているからと言って持続したりはしない。
ただ、今回はどんどん痛みが増していったのである。というのも、針が静脈に入ってからも針を刺した角度は変えずにどんどん押し込んでいくので、素人なりにも「明らかに静脈を貫通して (pierce) その下に行っている」というのが明らかであった。
肘の近くの静脈であればその下には前腕の屈筋群があるが、今回の場合は筋肉はゼロで、すぐ下は橈骨 (radius) となる。つまり「骨に当たっているのでは?」と思いたくなるくらい痛みはどんどん激しくなっていった。