四方山話
     

       

台湾フィットネス紀行/四方山話




佛朗明哥

  スタジオの入り口の壁にはエクササイズの時間割が貼られている。その中に、水曜日、夜6時40分から始まるクラスに「佛朗明哥」というのがある。「何のクラスなのだろう?」と少し気になっていた。
「ブツロウメイカ?」「フツロウミョウカ?」と音読みを組み合わせてみたところでなんのクラスだかは全く分らないし、それが正しい発音になっているはずもない。
ただ、「佛教」の「佛」の字を使っていることから「ちょっとヨガっぽい」などと思ってみたりもしたが、時間割を良く見ると別に「YOGA」のクラスがある。「ペアとかにならないだろうな」と一抹の不安も無きにしも非ずであったが、「せっかく台湾まで来たのだし、旅の恥はかき捨てというし」ということで、受けて見ることにした。
レッスンが始まる10分前に、スタジオの入り口のところでその前のレッスンが終わるのを待っていた。人気のあるレッスンであれば、始まる30分くらい前からスタジオの入り口の前に列ができることもあるが、全くそのような気配はない。
私とは別に、もう一人入り口の前に女性が一人立っているだけ。腰のところに何か半透明の薄い布を巻きつけている。それが気にならなくはなかったが「女性って、結構奇抜なウエア着ることもあるしな。」と独断と偏見がスッと頭の中を走り抜けていった。
ふと、壁に貼られた時間割の方に目をやると、ちょっときれい系の女性が時間割を見ているではないか、心拍数が少し高くなりかけているかなと思っていると、足が勝手に彼女に向って動いていたのである。
「英語はなせますか?」
「ちょっとだけなら…。」
「次のこのクラスは何のクラスですか?」
「次のクラスですか。私のクラスです。」
「インストラクターなんですか?」
「ええ、そうです。」
「で、次はダンスのクラスですか?」
「ええ、○△■です。」
「○△■?」
「○△■」の部分が聞き取れず、もう一度聞き直したが何と発音しているのか分からなかったので、質問の内容を変え
「難しいですか?」
「????」
私の「difficult」の発音が通じず何回か繰り返したがだめだったので、今度は「easy」を使ってみたがこれもだめ。仕方がないので自分のことを指差し、そしてスタジオを指差して「OK?」と聞いてみると「OK,OK」と言ってくれた。
何が「OK」なのかはこの際どうでもいいこと。とにかく受けてみれば分かる。仮にどうしてもついていけないようであれば途中で退散すればよいのである。
前のレッスンを受けていた人たちが全員スタジオから出てくると、彼女はスタジオの中に入っていったので、私も後に続いた。
最初は心拍数が上がり気味だったので(?)、あまり視界に入ってこなかったのかもしれないが、彼女をよくよく見ると、着ているウエアが気にならないでもない。
上は半そでのTシャツで下はタイトな黒のロングのパンツをはいているのだが、その上から、つまり腰から下はくるぶしまで届きそうな、やはり半透明な布を巻いているのである。
「一体なんのクラスだろう?」と思っていると、少しずつではあるがスタジオに入ってくる人の数も増えてきた。そして、レッスンが始まるころには12、13名前後の人がいたが、3名ほど腰から同じように布を巻きつけている女性がいる。男性は、私を含めて4名ほどいたが、みんあ普通の格好である。
すると今にもレッスンが始まろうかというときに男性が一人スタジオに入ってきたのだが、上はポロシャツ、下は普通のスラックス、そしてシューズは革靴なのである。
「非常識なヤツだな!」と思っていると次に入ってきた男性も同じような格好をしている。
彼らの格好を見て、「もしかして社交ダンス?」と一瞬イヤな予感がした。社交ダンスなどというものは、そこそこの人生は歩んできてはいるが、もちろん一度もやってみたことはない。一応「Shall we dance?」は観ているので、「シャール・ウィー・ダンス、シャル・ウィ・ダンス、シャル・ウィ・ダンス」のテーマソングの頭の部分くらいは口ずさむことくらいはできるが、「でもステップは全くダメダメ」状態である。
それより「社交ダンスは男女ペアで行うもの」であることくらいの知識はあり、それが問題なのである。「もしかしてペアを組まされるのかな?」という不安が増殖しつつあり、それだけはどうしても避けたかった。
レッスンが始まる時間になったのでインストラクターが音楽を流し、マイクを手に取った。例によって、どこのクラスでもあるように「これからレッスンを始めます。初めての人いますか?」と言っていると思われる中国語とともにインストラクターが右手を上げると、2、3名の人が手を上げている。
私は、というと「すでに彼女には、初めてだし中国語は話せないということは分かっているので」と、そのまま「僕、中国語分かりませ〜ん。何を言っているのだろう?」という感じで首などをちょっとかしげてみたりして立っていたのである。
しばらく簡単なステップを踏んでウォーミングアップをすると、手首から先をくるくると回す動作が多くなってきた。その内、ステップもかかとをフロアに強めに打ち付けてわざと音を出すようなものが出てきた。
この時点で何のクラスだが分かったのである。「フラメンコ」だ。フラメンコのレッスンである。それで男性の何人かは音が出るように革靴を履いてレッスンを受けているのである。ポロシャツとスラックスというのもうなずける。
「佛」が「フ」、「朗」が「ラ」、「明」が「メン」、そして「哥」が「コ」である。なんとなく納得いくではないか。
腰や手首から先をクネクネさせ回す動作は、鏡に移る自分の姿を見てちょっと恥ずかしかったが、初心者向けのクラスだったので(時間割に「初」の字があった。)ステップの動き自体は「長くてなかなか覚えられない」というものではなく、そこそこみんなについていくことができた。何よりもペアを組むようなこともなく、「めでたしめでたし」である。


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