何となく突然、観光がしたくなり「ちょっと寺院でも見ておくか!」となった。27年ほど前に初めてバンコクを訪れたときに、ある程度主要なものは訪れているはずである。おぼろげながらに記憶にも残っているのだが、「もしかしたらバンコクもこれが最後かな〜」という可能性が無きにしも非ずである。よって、ちょっと重い腰を上げた次第だ。
最初に訪れたのはワット・アルン(暁の寺)で、そこを適当に見てボートでチャオプラヤ川の対岸に渡った。運賃は4バーツで、乗船時間は1分ほど。そこから涅槃仏のあるワット・ポーに向かって歩いていると、道端にいた男性に声をかけられた。
男性: どこへ行くんだい?
私: ワット・ポーへ。
男性: ワット・ポーなら逆だよ。
私: そうなんだ…。
男性: でも、今は12時ちょっとすぎだろ。今日は仏教デー?なので12時から2時までは入ることができないよ。
私: えっ、そうなんだ…。さて、どうするかな〜。
男性: 2時まで周辺を観光してみてはどうだい。そこにいるトゥクトゥクのドライバーだったら寺院をいくつかとタイシルクが買えるタイファクトリーを回って60バーツ(約193円)でいいよ。2時ころに戻ってくるので、そうすればワット・ポーを見学できるだろ!
いくらなんでも60バーツは安すぎるので、念を押してみた。
私: ちょっと、60バーツって本当なの?本当にその料金で行ってくれるの?
男性: もちろんだよ。今日は仏教デーで暇なんだ。だから60バーツでいいよ。
私: そうなんだ…。でも、まだシルクなどのお土産を買うつもりはないよ…。
男性: まあ、そのへんは適当でいいよ。
私はもう一度料金を念を押してみると、彼は「60バーツ」と紙に書いて「これ以上払わなくていい」と言っている。よって、お願いすることにした。
名前は覚えていないのだが、トゥクトゥクで10分ほどかけてある寺院に向かった。それほど大きなものではなく特にこれといった特徴がある寺院でもなかった。ただ、1つだけ印象に残っているのは、寺院のすぐ横にはムエタイのジムがあり、ドライバーに「ちょっと見学してみよう」と言われて案内してもらったこと。ただ、昼休みの時間だったので、練習風景が見られたわけではなかった。
そして、ドライバーが「さあ、次はシルク製品が買えるファクトリーに行こう!」と言い出したので、「まだお土産は買うつもりはないので行かなくていいよ」と言うと、そこからが一悶着あったわけである。
ドライバー:別に買わなくていいんだ。見るだけでOKだよ。
私: いや、興味がないので見たくもないよ。
ドライバー: 1分でいいんだよ。1分で…。
私: いや、そのファクトリーはパスするよ。もう、どこも寄らなくていいからワット・ポーに行ってよ。
ドライバー: それじゃあ、オレが困るんだよ。そこに行けばガソリン代が出るんだ。
私: 始めから「ファクトリーには興味がないから」って言っているんだよ!
ドライバー: そんなのオレは聞いていないよ。
トゥクトゥクの料金が安かったのは、ちゃんと訳があったわけである。私をその「シルクファクトリー」に連れて行けばバックマージンみたいな感じでドライバーにいくらか入ることになっているわけだ。そして、ドライバーは私にこう言った「分かった。ファクトリーには寄らないでワット・ポーに行くから料金として250バーツ払ってくれ!」
60バーツが250バーツになってしまって、全く「やれやれ」である。私も久しぶりの海外で少し油断していたのかもしれない。もちろん250バーツなど払う気などあるわけがない。ただ、そのままワット・ポーまでトゥクトゥクを乗って「約束の60バーツしか払わないよ」と言って済むわけはない。よって、「じゃあ、もういいよ」と言って60バーツを払ってトゥクトゥクを降りることにした。
その手のお土産物屋に連れてかれると、「買うまで帰さない」なんてこともときどき耳にする。そのようなことはあまりタイでは聞かないが、「絶対にない!」とも断言できない。私がタイの好きな理由の一つに、「観光客をだますことが他の東南アジアに国に比べて少ない」というのがあり、それは実体験から来るものである。ちょっと10年というブランクがあるので「変わってしまったのかな〜?」などと思わないでもないが、気のせいであることを願うばかりである。
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