私たちのツアーは横浜を出発して4日目にモスクワに到着した。モスクワでは現地のガイドが観光案内をしてくれる予定になっていた。空港を出たところで私たちを観光案内してくれるガイドさんとご対面となった。
男性と女性のガイドさんが私たちのことを待っていてくれた。それぞれと握手を交わし、ガイドさんたちは自己紹介を始めた。
もう名前は忘れてしまったが、二人はご夫婦で、モスクワの大学で日本語を専攻している学生さんとのことであった。しばらく二人の話を聞いていたのだが、奥さんの方、ちょっと違和感を感じたのである。
それは何かというと、鼻の下にうっすらと産毛が生えている。そして、特に注意深く観察していたわけではないが、脇の下のけっこう立派な毛が目に飛び込んできた。
日本でもときおり鼻の下にうっすらと産毛をはやした女学生を目にしたことはあったが、もう私がものごころついたときから日本人の女性は脇の下の毛を剃るという習慣が付いていて、脇毛を生やした女性は一度も目にしたことがなかったので、特に同年代の女性が剃らないでいるということに「あれっ!」と少し違和感を覚えざるを得なかった。
まあ、日本でも、脇毛を剃る習慣というのはそれほど昔からあるものではないはずである。西洋から来た習慣というのは容易に想像ができる。最近は男性でもたまに、フィットネスクラブのお風呂などで剃っているのを見かけたりする。私は一度も剃ったことはないが、生えていると毛玉ができたりするんですよね〜。
最近の西洋人は下の毛も…。いかん、話がそれてしまった。
ガイドさんの自己紹介と簡単な今後の予定の話が終わると、「とりあえずホテルに」ということで宿泊するホテルに向かった。
もちろん宿泊するホテルは、もともとのツアーに組み込まれているもので、私が自主的に選択したものではない。バックパックを背負いながら回転式のドアを通って1階のロビーに進んだ。あたりをキョロキョロを見回すと、色々な国からの観光客が宿泊しているようであった。「バックパッカ―がこんな豪華なホテルに泊まってもいいのかな〜?」というほど立派なホテルであった。
とりあえずあてがわれた部屋に行ったわけだが、それがシングルであったのか、それともツインであったのか、はたまたトリプルであったのかははもう記憶にない。
ホテルのレストランで食事をしていた時のことである。ウエイターがしきりに「その時計を売ってくれ!」「その履いているジーパン、いくらだったら売る?」と声をかけてくる。
実は、この手の話は出発前から情報を得ていた。当時のソ連は社会主義の国であったので、資本主義の国に比べたら出回っている日常の生活用品などはかなり限られていた。リーバイスやエドウィンなどの外国製のジーンズなどはまともには流通していなかったであろうし、時計は、もちろん現地の人はほとんどしてはいたが、私がはめていたデジタルの時計(計算機付き)のものはなかったようである。
正直言うと、そういう情報を得ていたので、わざと現地の人が欲しがるようなものを身に着けた次第である。「いくらで買うの?」と尋ねると、もう具体的な金額は忘れてしまったが、日本で購入した金額の3倍くらいの値をいってきた。
実際にその買値を聞いてみると「そんなに高く買ってくれるの!」と驚いたりもするが、ただし、支払いはすべて現地の通貨のルーブルである。円やドルではない。
「ルーブルをもらってもな〜」ということになる。ここが最終目的地であれば、「お土産を買わなきゃ!」ということでルーブルを使うこともあるだろうが、これから旅行をする者にとってここでお土産を買って荷物を増やすわけにもいかない。
ツアーは全て食事つきなので、レストランなどで自費で食事をすることもない。だから、ルーブルを持っても使い道がないのである。それに入国するときに円をルーブルにある程度両替していて、その使いきれなかったものは再び出国時に円やドルに替えることができるが、当然それは入国時に両替したルーブルより少ない金額でなければならない。
例えば、入国時に円を1000ルーブル分両替したとして、出国時に1200ルーブルを再び円に替えることはできない。「この200ルーブル、一体どうしたんだ!」ということになる。「ちょっとジーンズを…」などという説明では納得してもらえないだろう。
入国での税関での光景は鮮明に脳裏に焼き付いているので、「これは必要なので」と、ウエイターからの「売ってくれ」攻撃を避けることにしていた。
備考 |
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