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トッピクス - 旅に出よう - 海外(その3)

 

 

 

・ひと儲けしないか?!

 

 

■ ひと儲けしないか?!■

 バギオは、首都マニラがあるルソン島の北部の都市で、マニラから約250キロ北に位置する。記憶にはないのだが、恐らくバスで移動していると思う。調べてみると、マニラから5時間半から6時間半ほどかかるようだ。

 ここバギオでは、安宿に宿泊している。恐らくユースホステルがなかったのであろう。安宿の情報も、「地球の歩き方」を持ち歩いていれば特に問題はない。

 バスターミナルでバスを降り、地球の歩き方を片手にバックパックを背負って歩いていると、30代半ばくらいの男性が声を掛けてきた。例によって無視するのが一番である。 英語で話しかけられても、決して英語で答えてはいけない。とにかく「オレ、英語分からないだけど」とか「今、宿探しで忙しいんだけど、何の用?」などと日本語で適当に通すしかない。5分くらいはついて来たが、会話が全く成立しなかったので、それ以上やっても無駄だと思ったのだろう。諦めてどこかへ行ってしまった。

 「やれやれ」と思ってしばらく歩いていると、また別の男が話しかけてきた。一難去ってまた一難である。今回も、日本語で通していたのだが、ポロット英語が出てしまったのである。「しまった!」とは思ったが、もう遅かった。「なんだ、英語が話せるんじゃない!」と言うことになってしまった。

 目的としている宿まで英語で適当に会話をしなければならなかった。それから10分も歩いたであろうか、目的の宿が見つかったので、「じゃあ、悪いけど、オレは今日ここに泊まるので…」 と「さよなら」をしようとしたのだが、「オレ、ここ知っているよ!」と言い出す始末である。

 ビルの2階の部分が宿となっていて、2階まで階段を使ったが、当然、彼もついてくる。フロントでバックパックを下ろし宿泊したい旨を告げると、OKとの返事で、早速、宿泊の手続きを取った。

 「それでは、〜号室を使ってください」と、部屋の鍵を渡されると、例の彼は、「荷物は重たいだろうから、オレが持って行ってあげるよ」と、部屋までついてくる始末である。部屋に入り、私は荷物をベッドの脇に下ろし、ベッドに腰掛けた。そして、いつまでも付きまとわれては困るので、彼に言った。

 私:「で、一体何の用なの?」

 彼:「オレの伯父が日本について知りたいと言っているんだ」

 私:「伯父さんが?」

 彼:「そう、ここからタクシーで10分くらいのところに住んでいるんだけど、一緒に来てくれないか?」

 私:「ん〜」

 彼:「お願いだよ」

 私:「分かったよ。じゃあ、行こう!」

 今から思い返すと、なぜこのとき「分かったよ」などと言ったのかが全く分からない。どう考えても怪しい話にしか思えないのだが…。

 私は、デイパックだけを背負って、彼と一緒に通りに出た。彼がタクシーを停め、私達2人は乗り込んだ。10分も走っただろうか、タクシーは閑静な住宅街で停車した。

 彼が、「ここが伯父の家だよ」と指さした家は、そこそこの広さのある一軒家であった。彼がチャイムを鳴らすと、50前後の女性が現れ、応接間に通された。ソファに腰を掛けていると、やはり50前後の痩せた男の人が現れた。彼に「この人が僕の伯父さんです」と紹介されたので、私は立ちあがって握手を交わした。

 その伯父と交わした会話は、「日本のどこに住んでいるのですか?」とか「バギオの次はどこに行きますか?」などのように、旅行者と現地の人と間に成り立つありきたりなものであった。しかし、突然、彼がこう話題を変えてきたのである。

 伯父:「実は、私はカジノで働いているんだ」

  私:「へ〜、カジノですか」

 伯父:「そう、ホテルのね。そこでいい話があるんだ」

  私:「いい話?」

 伯父:「そうだ。どうだ、二人で組んでひと儲けしないか?」

  私:「ひと儲け?」

 伯父:「そうだ、あなたがカジノに来てくれれば、勝たせてやる。で、儲けた分を山分けしよう!」

 この手もよく聞く話である。最初は勝たせておいて、結局、最後は負けて借金が残るという結果になる。

  私:「いや〜、ギャンブルは好きでないし、それに、現金のほとんどはマニラにいる友達に預けているので

     手元には100ドルちょっとしかない。これは旅を続けるのに必要なお金なんだ」

 伯父:「またまた、本当はたくさん持っているんだろ?!」

  私:「いや、本当だ。たくさん持ち歩くのは危険だからと友達に言われ、彼に預けたんだ」

 会話を続けていると、最初に応対してくれた女性がビンビールを持ってきてくれた。手に取るとギンギンに冷えていて、上部が凍っているほどであった。

 この手のドリンクも危ない話をよく聞いている。つまり、差し出されたドリンクには睡眠薬が入れられていて、飲んだのは良いが、気が付くと、身ぐるみはがされていて道路にうずくまっているというパターンである。

 ちょっとためらったが、ビンには栓がされていて、私は3本あったビールのうち任意のものを選んだので、「恐らく大丈夫だろ」ということでゴクゴクやってしまった。

 伯父:「残念だな〜、二人で手を組めば必ずもうかるのに…。」

  私:「いや〜、それは残念だ!」

 それ以上押しても無駄だと思ったのか、彼の伯父が「じゃあ、オレはそろそろ仕事の準備をしないと…」と言い出したので、私達は、再びタクシーで来た道をホテルまで戻った。事なきを得た次第である。

 

備考