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トッピクス - 旅に出よう - 海外(その3)

 

 

 

・「はあっ?!」

 

 

■ 「はあっ?!」 ■

 クアラルンプールからシンガポールまではバスを利用した。どのくらいの乗車時間だったのかは定かでなかったのでちょっと調べてみた。所要時間はおよそ5時間ほどで、途中で休憩が1回だけあるとのことであった。今でもはっきりと覚えているのだが、私が利用したバスは乗客は10名ちょっとで、プラスしてドライバー1名と車掌みたいな男性が1名乗っていた。乗客は、そのほとんどが西洋人で、もちろん現地の人と言うよりは旅人という感じであった。バスは大型の観光バスで、「乗客が10名ちょっと」ということは空席の方が多いということになる。

 もうすぐ休憩を取るというときのことであった。車掌が言ったことを一言一句覚えているわけではないが、「もうすぐ休憩時間を取ります。〜時までには戻ってください!」というようなことを乗客に伝えた。私は、元来、小心者のため「〜時までには戻って下さい」と言われれば、アクシデントがない限りはそれを遵守する。「ちょっとくらい遅れても大丈夫だろう」とは思わない。それは親しい友達と待ち合わせをするときも同じである。

 休憩を終え、バスへ戻ろうとしていた時のことである。前方に私以外の乗客がバスの方に歩いて行くのが見えた。彼らは1分もしないうちにバスに乗り込んでいった。私は特に気に留めることもなかった。それは、バスに戻らなければならない時間までにはまだ余裕があったからである。もし、時間を過ぎていれば、私の性格からして走って戻っていたに違いない。

 通常、ほとんどの人が戻ったからと言って、10名ちょっとなのだから人数を確認するのが常識だと思っていた。しかし、それは日本の常識であったようである。後50mほどというところで、こともあろうにバスは私を置いて出発してしまったのである。私は「はあっ?!」と思わざるを得なかった。そんなことあり得ないと思っていたのである。

 現金、パスポート、帰りの航空券などの貴重品は首からぶら下げていたが、それ以外は全てバックパックに入れ、バスの荷室に入れたままであった。「おっ、ちょっと待ってくれ!」と叫んでもバスの中にいる人たちには届く距離ではなかった。それでも、「もしかしたら、私が乗っていないのに気づいて停まってくれるのでは…」と淡い期待を抱いたが、無駄であった。

 バックの中の衣類等に関しては、高級なものが入っていたわけではないので現地で十分に調達が可能である。カメラやガイドブックは背負っているデイパックに入っているので、「なくなっては困るもの」のトップは、今まで撮った写真のフィルムである。これをなくせばもう取り返しがつかない。

 でも、自分で言うのもなんだが、「最悪、仕方がないな」と比較的冷静だったような気がする。とりあえずシンガポールに入らなければならない。近くを歩いていた人に聞くと、バスがあるとのことである。私は教えてもらったバスに乗ってシンガポールに入国し、終点で下車をした。すると、少し前に私に、私を置き去りにしたバスが停車しているのである。そして、ラッキーなことに、私のバックパックは、無造作にバスの横の歩道に置かれていたのである。私はバックパックを手に取り、フロントドアの開いたバスに乗り込んだ。すると、例のドライバーと車掌もどきの男が話をしていたのである。

 「何でオレを置いて行ったのだ?」と言うと、「戻ってこないお前が悪いんだ!」という始末である。もう、それ以上議論をしても無駄だと思った。私は「しょうがねーなー」と文句を言いながらバスを降りた。まあ、考えようによっては、荷物も無事だったのだからラッキーと言えばラッキーだったのかもしれない。そこから、ガイドブックに載っている安宿に向かった次第である。

 

備考