四方山話

       

台湾フィットネス紀行/四方山話




STEP(初)

 金曜日の夜8時からのクラスである。スタジオプログラムの時間割の「STEP(初)」という文字からだいたいはどのようなクラスだかは想像がつく。
「STEP」とはステップ台を用いた昇降運動のクラスであり、「初」とは初心者向けのクラスであるということだ。これはもう受けるしかない。他にダンス系のクラスはけっこうあるが「FUNKY」とか「LATIN」とあるものは日本でも今まで受けたことがないので、いくら「せっかく台湾まで来たのだから」と言ってもためらってしまう。
レッスンが始まる20分前くらいに、この前のダンス系のクラスが終わると、このステップのクラスを受ける人が勢いよくスタジオに入っていったので「満員御礼状態になるのかな?」と思っていると、スタジオの後ろのほうは結構余裕があった。
ステップ台を、スタジオの脇にある小部屋から取りスタジオのはじの方に置いた。高さを調整する足を使用する人は数人で、ほとんどの人が台だけの一番低い形でセットをしているのである。ちょっとこの辺が日本と違うところである。
日本では、よっぽどクラスに慣れていない人以外はみんなステップ台の下に足を入れ高くしてレッスンを受けているはずである。
「どんな人が受けるのかな?」などとキョロキョロしていると、すぐ後ろに台をセットした40代と思われる女性が、私が置いたステップ台の横を指差しながら中国語で話しかけてきた。もちろん何を言ったのか全く分からなかったので「中国語は分からないんですけど・・・。」と英語で答えると、今度は「ステップ台は6つ使うのよ!」と英語に変わったのだが、この「6つ」という単語を聞いてわが耳を疑ってしまった。
「6つ!?台を6つも使うの!?」
「そうよ。6つよ!だから今置いた台の横にも台を用意しないと・・・。」
この時点で身体が固まってしまった。「台を6つなんて今まで使ったことがない。それにしてもあの時間割に載っている「初」という漢字の意味は何だったのだろう?」と私はスタジオの外にはってある時間割をもう一度よく見てみた。
縦が曜日ごとに、横が時間ごとに区切られた時間割のそれぞれのマスにはクラス名とインストラクター名が、そして全部ではないが、クラスによっては(初)(中)などと漢字で書かれている。
よくよく時間割の下のほうを見ると「Beginner=初級」「Intermediate=中級」「Advanced=高級」とある。またいくつかのクラスでは「入門」の文字も見ることができる。
これはもう国が違っても「入門、初級、中級、高級」の表す意味は日本人であれば、通常は理解できるはずである。無学文盲の私でも一応理解できる。
再びスタジオの中に入り「ちょっと困ったぞ。どうしたものかな?今回はパスして、どのようなレッスンなのか一度外から様子を見たほうがいいのかな?」と考えていると、右横にステップ台を置いた男性が私の左横にステップ台を置いてくれて「ほら、これを使うといいよ!」と声をかけてくれた。
「シェイシェイ、でもこのクラスは初心者向けのクラスじゃないの?」と彼に尋ねたのだが、首をかしげて「うーん・・・。」という感じで困ったような表情をしているので、「どんなステップを踏むんだい?ベーシックステップとかタップアップとかじゃないの?」とステップを踏みながら彼に尋ねたが、またまた困ったような表情。
「バンコクでの二の舞はあまり踏みたくないしな・・・。」とも考えたが「ええーい、旅の恥は書き捨てだ!ついていけなかったらそのときはそのとき」と思っていると、横の彼が「こんな感じかな」というふうに自分の前のステップ台と左右の台を合わせて3台使ってステップを踏んで見せてくれた。
もちろん台を1台使おうと3台使おうと「踏むステップ」の種類はベーシックステップであったり、タップアップやマンボステップであったりして特別なものが出てくるわけではない。問題は一連のコンビネーションを覚えられるかどうかなのである。
日本の国内でも、ステップ台を用いたクラスにかかわらずエアロのクラスでもそうなのだが、普段受けていないインストラクターの特に上級のクラスを受けたりすると、難しい動作もあるのだが、結局は全体の流れ(コンビネーション)が覚えられなくて「撃沈」してしまい、うまく汗がかけないとフラストレーションも溜まってしまうのである。
まあ、覚えられないのは自分に責任がある以外の何ものでもないのだが、最近、特にステップやエアロのレッスンを受けていないので余計である。
「まあいいか。なるようになれ!」と覚悟を決めレッスンが始まるのを待った。インストラクターがクラスのはじめに例によって「初めての人いますか?いたら手を上げてください!」という感じで右手を上げているが、私も例によって「ボク、中国語分からないもんね!」みたいな感じで無視しようとしたが、隣のステップを踏んで見せてくれた男性が、インストラクターに「この人、初めてだけど中国語ぜんぜんだめみたい。」という感じでインストラクターに大きな声で話しかけているではないか。「あらら、そんな余計なことをして…。」と思っていると、インストラクターが隣の男性に中国語で何か言っている。するとその男性が「ステップ台を使ったクラスは受けたことがあるの?」って言っているけど…。
と私に通訳してくれた。私が「あるけど1台しか使ったことがないんだ。」と答えると、それをまたインストラクターに伝えている。
何回か「インストラクター・隣の彼・私」の間でやり取りがあったが、最後は彼から「無理しないように、だって」と言われ、私は右手の親指と人差し指でOKマークを作って「OK」と言って会話は終わった。(OKマークって万国共通なのだろうか?)
しかし、この時点でスタジオにいる他の人の視線は私一点に集まって「ヒーロー状態」で、もううれしくって仕方がない。
ステップ台を6台使うといっても、もちろん一人一人がそれぞれ6台を占有するわけではない。自分の前にあるステップ台とその左右の2台のステップ台で3台、そして同じように、自分の後ろにある3台のステップ台で計6台となる。
コンビネーションは4つのパートからなった。1つのパートが4種類のステップから構成されている。最初のパートを練習し、2番目のパートに移る。そして、最初のパートと2番目のパートを通して練習する。
同じように、3番目のパートを練習し、4番目のパートを練習する。そして、3番目、4番目を通して練習する。
そして、最後に最初のパートから最後の4番目のパートを通して練習する。つまり全部で16種類のステップを踏むことになる。
悲しいことに、1つのパートを終えて次のパートを練習し終わる時点で、前のパートの内容は頭の中から吹っ飛んでいるのである。ただ各パートの最初の動きさえ分かれば、何とかその後はボーっとではあるが思い出せるので、各パートの最初だけみんなよりちょっと遅れて始めることになる。
最後の全部通すのもかなり繰り返してくれた。「最初から最後まで全くミスすることもなくステップを踏めた」というのは1回もなかったが、「全然ついていくことができなくてストレスが溜まった」ということもなく、幸いにして汗もたくさんかくことができた。
レッスンが終わりステップ台を片付けてスタジオを出ると4名くらいの人が腰を下ろしていた。そのうちの一人に「済みません、どこから来たのですか?」と聞かれたので「日本からです。」と答えると「やっぱりね!」「エッ、日本人なの?」といろいろな反応をしていた。
次の週も同じクラスを受けたが今度は台を2台使用してL字に置いた。2回目の方が使用する台は少なかったが、みんなについていけなかったような気がする。ステップを踏むのが下手なせいか台もよく移動して、その都度、位置を直さなければならなかった。
それを見ていた隣にいた男性が「これを使うといいよ!」と自前の滑り止めを貸してくれたので、それを台の下に敷いてからはかなりやりやすくなった。結構、「マイ滑り止め」を持ってきている人はいるようである。
しかし、日本の場合、特にエアロ系のレッスンは、だいたい同じ月であれば同じような動作を繰り返すのが常であるが、ここではそのようなこともないようだし、時間割に「初」の字があってもほとんど意味がなく、内容はインストラクターに一任しているようだ。


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