専業教練、リン
「専業教練」とはプライベートインストラクターのことである。ここアレキサンダーヘルスクラブにもプライベートインストラクターがいて壁に彼らの写真が張ってある。14、15名くらいはいるようだ。
利用2日目、フリーウエイトのマシンでトレーニングをしていると、初日に館内を案内してくれたリンが声をかけてくれた。
「あれ、入会したんですね。昨日は来てなかったのでこないのかと思っていました。」
「昨日も館内を案内してもらってからチケットを買って、夕方にまた来たんだよ。ボディパンプのレッスンを受けたよ。」
「そうですか。気がつかなかった。」
「そうだよ。それより、その着ているユニフォーム、プライベートインストラクターなの?」
「そうです。プライベートインストラクターとして働いているんです。何か分からないことがあったら声をかけてくださいね!」
「うん。わかったよ。」
と彼女との2回目の会話はこのような感じであった。それからは通うごとに
彼女とは顔を合わせ「このクラスはすごく込んでいる。」とか「これはダンスのクラスで、とても簡単だ。」などとスタジオプログラムについて教えてもらった。
プライベートインストラクターなのだから「プライベートレッスンをしてなんぼ」の世界であるはずである。いろいろお世話になったお礼にプライベートレッスンをしてもらい、ちょっとは「なんぼ」に協力をしてあげようと思い、彼女に声をかけてみた。
「プライベートレッスンをしてくれないか?」
「私にできることがあるの?トレーニング?」
「いや、ストレッチはどうだい?明日の夜、ボディコンバットのレッスンを受けてからストレッチにつきあってくれるかい?」
「それなら私にもできそうだわ。OKよ!」
「良かった!それでいくら払えばいいの?」
「大丈夫、大丈夫、そんなこと気にしなくていいから。」
「気にしなくていいからって、プライベートレッスンをしてもらうんだからお金は払わなくてはだめだろう!?」
「いいの、いいの、お金のことは気にしなくて。」
「本当に大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ!」
せっかく、「お礼を」と思い気を使ったつもりだが、逆に気を使ってもらう
こととなってしまったようだ。「別の形でお礼をすればよいか…。」ということで彼女のお言葉に甘えることにした。
翌日、ボディコンバットのレッスンでびしょびしょになったタンクトップをTシャツに着替えてプライベートレッスンの受付カウンターにいくとリンが待っていてくれた。
フロントのすぐ横にプライベートレッスン用の専用スペースがある。広さ的には10から12畳ほどで、有酸素系のバイクマシンが2台ほど、ダンベル、ストレッチマット、そしてバランスボールなどの簡単な用具が壁際に並べられている。
そこで50分ほどみっちりとストレッチのプライベートレッスンをしてもらったのだが、「ソフト系」というよりは「ハード系」のストレッチで、「これ以上は痛くて伸ばせない!」というのもいくつかあった。
その間、多少プライベートな話もしたのだが、リンは2005年に一度だけ日本に来たことがあると。「○▼□のために日本に行ったわ。」と言われ○▼□の部分がなかなか聞き取れなかったので何回か繰り返してもらううちにやっと分かった。
「チアリーディング」であった。
チアリーディングの大会が日本であり、それに出るために5日間ほど日本に滞在したということである。しかし、自由になる時間はほとんどなく、観光などは全くしなかったとのこと。
「それで結果はどうだったの?」と聞くと、ニコっと笑って右手の人差し指を立てた。
10歳のころから体操を習い、学生時代にチアリーディングを始めたとのことだが、どうりで体が柔らかいはずである。前後の足の開脚なども簡単にやってのける。
帰国の前夜、「彼女にはちゃんとあいさつをしないと…。」と思い、このクラブでの最後のレッスンを受け終わりプライベートレッスンの受付カウンターに行くとリンがいたので、「明日、日本に帰らないといけないんだ。リンにはいろいろお世話になって…。」と話すと、「10分くらいなら時間が取れるので」ということで、簡単にストレッチを手伝ってもらった。
レッスンを受けて「汗だく」になった体で申し訳ないなとも思いながらも、再びお言葉に甘えることにした。
最終的には、彼女には言葉でのお礼しかできなかったが、「ホームページができたら是非見てほしいのだけど」とメールアドレスの交換をして別れた。