四方山話

       

タイ・マレーシア フィットネス紀行/四方山話

 

  


マットがビチョビチョ 「ホット・ヨガ」

 「Hot Yoga」であるが、ネットで調べてみると「室温を上げ発汗作用を高めるレッスン」との説明である。なぜ室温を高めるかというと「よりヨガの発祥の地であるインドに近い環境を作る」とのことで、「わざわざそんなことを…」などとも思ってしまうのであるが、「汗がたくさん出るのは悪いことではない。いずれ機会があったら1度は経験してみたい」と思っていたが、バンコクでその機会に恵まれるとは思ってもいなかった。
ただ、通常の1時間のクラスでも、内容によっては汗が滴り落ち、フロアーを拭き拭きしながらレッスンを受けることもあるので、「ましてや室温が高かったらどうなってしまうのだろう?」という不安がないではなかった。
木曜日の夜、8時半からのクラスであった。スタジオに入ると「ムッ」とした。室温が高いというよりは湿度が高いような感じであった。もちろん温度計や湿度計が置いてあるわけではなかったので、正確な数字は知る由もなかったが…。
照明なども「ヨガ」を意識してか、ちょっとシャレたアジアンテイストのものを使用している。
数名の女性があらかじめ用意されているマットに座っていた。私はスタジオの一番後ろにあるマットを選んだ。ただ、スタジオは横長なので、一番後ろといってもインストラクターからはマット3枚分ほどしか離れていない距離である。
程なくインストラクターが入ってきたが、何と「インド人」の男性ではないか!だんだん「ヨガ」という雰囲気が高まってきた。
長い髪の毛を頭の後ろで結んでいる。そして、彼が持ってきたCDをプレーヤーに入れ、スピーカーから音楽が流れてくると、「ヨガ!」という雰囲気が一気に頂点に達していった。(かなり大げさではあるが…。)レッスンを受ける人も少しずつ増えいき、25名くらいにはなっていたようである。
ヨガ以外のスタジオのレッスンだが、基本的にはスタジオの出入りが自由で、その時間内であれば「いつ入っても」「いつ出ても」構わないみたいである。
だから、レッスンを受けていて、友達がスタジオの外を通ったりすると、慌てて出て行って「ね、ね、ね、今度の土曜日、ヒマ?もしヒマだったら、サイアムスクエアにショッピングに行かない?」などという会話をしているかどうかは分からないが、レッスン中でも何のためらいもなく自由に出入りしている。
どちらがいいかどうかは、判断が分かれるところだと思うが、日本のように「レッスン開始後、10分たちましたら入場はご遠慮ください。」などという掲示は見受けられない。
ただ、ヨガのレッスンだけは違っていた。「No one will be permitted to enter the studio without a pass card or once the class begins. Please switch your hand phone on silent mode once you enter the yoga studio. (レッスンを受ける人は必ず整理券を用意してください。レッスン途中での入場はできません。また、スタジオ内では携帯はサイレントモードにしてください。)」という英語の掲示がスタジオの出入り口やスケジュール表にある。
整理券に関しては、「短期」の会員である私の場合は、ヨガの専用スタジオに通じるドアの前に受付があり、そこで氏名を用紙に記入して、受けたいレッスンの名前を言ってからもらっていた。なぜ整理券を配るのかは定かではないが、ヨガのスタジオも2つあるし、それ以外に4つのスタジオがあるので、人数制限をするほど1つのヨガのクラスに人が流れてくるようには思えなかったが…)
ここでちょっと話はそれるが、ここタイでも携帯電話の普及率は非常に高く、「持っていない人はいないのではないか?」と思えるほどで、複数所有している人も多い。
そして、タイの人は、どこでもこの携帯で会話をする。電車の中であろうが、バスでの中であろうが全くお構いなし。携帯電話で話しながらマシントレーニングをしている人もいるくらいだ。
スタジオのレッスンの合間に着信などを確認したりしている。「レッスン中はサイレントモードに」という一般常識みたいなものがあるのであろうが、サイレントモードにし忘れてレッスン中に携帯が鳴り、慌てて携帯の方に駆け寄っていく人も出てくる。
さすがにそのような場合は、インストラクターも「ダメよ!レッスン中はサイレントモードにしてね!」みたいな感じで声をかけているし、携帯の持ち主も「ごめんなさーい、今度から注意します!」というような感じで、申し訳なさそうにはしているが…。
さて、話をヨガに戻すが、「レッスン開始後は入室不可」というルールはあっても、やっぱりヨガ以外のレッスンの影響もあるのか、パラパラと遅れて入ってくる人がいたりするのである。
そのたびに、このインド人のインストラクターであるが、「ヨガは神聖なものなのである!ルールを守らなければいけないのだ!」とでも思っているのか、呼吸が大きくなり、チラッと遅れてきた人の方を見たりしている。さすがに、言葉でとがめるようなことはしていなかった。そう。耐えることもヨガの教えなのである。
さて、このインストラクターであるが、「インド人」と書いてきたが、純粋なインド人なのか、インド系のタイ人なのかは分からないが、レッスン自体は終始、英語で行われた。彼がもしタイ語を話せていれば、わざわざ英語でレッスンをすることもないであろう。そのことから想像するに、彼は純粋なインド人なのである。
ここタイでもヨガがブームなので、きっとインドで「君、君、バンコクのフィットネスクラブでヨガを教えないか?ここで教えているよりずっとリッチになるぞ!」などと声をかけられ、連れて来られたに違いない。
当然、レッスンを受けている人たち全員が英語を解しているわけではないので、1つのポーズが終わって次のポーズに入っても、彼がインストラクトする英語が分からなく、いつまでも同じポーズを取っている人もいた。私にとってはタイ語で行われるよりは、かなり精神的に楽であったのは言うまでもない。
さて、レッスンの内容であるが、ポーズは日本でもおなじみのアップドックやダウンドック、プランクなどのベーシックな動きに、ある程度のバランスや柔軟性が要求されるポーズが加わった。(申し訳ないが、これを書いている時点で、まだポーズの名前がほとんど頭に入っていない。)あの「リラヨガ」のレッスンと比べるとポーズを取ること自体はそんなには苦労はしなかったが、1つのポーズを取る時間が長いのである。
1つのポーズに対して、彼は「ワン、ツー、スリー」と10カウントするが、それに30秒くらいかかる。当然、ポーズによってはかなり忍耐力が要求されるのも出てくる。スタジオのあちこちから「うっ、うっ、うっ」という「我慢も限界に近いです」声が発せられている。
私も「最後までバランスが取れるかな?」ということも何回かあった。さすがに、30秒はかなり長く感じられた。
そのうち、40代くらいのちょっと小太りのオバちゃんが、インド人のインストラクターに「Seven is enough!」と提案したではないか。するとスタジオのあちこちから「そうよ、そうよ、7で十分だわ。」という内容と思われるタイ語が聞こえてきた。
彼はどのような反応をするのか様子を伺っていたら、特にためらうでもなく「OK, then I'll count seven.(いいですよ。じゃ、7にしましょう。)」とあっさりとオバちゃんの提案を取り入れたのである。
そうそう、国は違っても「お客様第一主義」でなければならないのだ。「それにしても、オバちゃん、あなたは偉い!あなたの勇気を賞賛したい!」と心の中で、私はこのちょっと小太りの40代と思われるオバちゃんに花束を捧げた。
これぞ「オバちゃんパワー」の正しい使用方法である。このようにプラスの方向に用いなければならないが、誤った使用方法が多いのが現実であり、非常に残念である。
レッスンが始まって15分もしないうちに汗が噴き出してくるようになり、30分もすると、髪の毛を伝わってマットにポタポタと落ち始めた。もう40分もするとマットはビショビショ状態である。足で踏むとところどころグショグショ音を発している。
隣の女性が「すごい汗ね!」とでも言っているのだろう、私を見て声をかけてきた。私も顔をたてに振った。
うーん、確かにすごい汗である。ただ、エアロのように右や左に動き回るような動作はないので、自分の汗で床が滑って他の人に迷惑がかからないことは幸いした。
このようにマットがぬれてくると、足の踏ん張りが利かなくなり、ツルツルと滑るようになってきて、ポーズが安定して取れなくなってきてしまった。
幸いなことにレッスンの最後の方は立位でのポーズが続いた。直立の姿勢であれば、足が横に滑っていくことはなかった。
あるポーズにこんなものがあった。直立の姿勢で右手の人差し指と中指で、膝を曲げてかかとを股関節の方に近づけていた右足の親指をつかみ、右手の親指をあて安定させる。そして、徐々に曲げている右膝を伸ばしていき、身体の右側に持っていく。そう「Y字のポーズ」である。たまにやるポーズだ。
股関節やハムストリングが柔らかくなければ足は高く上がらないし、足が高く上がってもバランスが取れなければ、「Y字」の姿勢は維持できない。
私の場合は、柔軟性があるほうではない。特に股関節が硬いので、格闘技系のレッスンなどでサイドキックなどをするときは、その柔軟性のなさを改めて実感している次第である。
ただ、バランスを取る力はなくはない。(かなり主観的だが…)だから、この「Y字のポーズ」も、「かかとがあごのラインくらいであれば、何とか安定させられるかもしれない。」くらいの感覚はあった。
スタジオの前面は鏡張りである。立位のポーズの場合、「だれができて」「だれができていない」かは、一目瞭然となってしまう。みんな、悪戦苦闘している。膝を伸ばす時点でバランスを崩して倒れてしまう人が続出。また、バランスが取れても、膝が曲がったままの人がほとんどであった。
インストラクターのカウントが始まった時点で、できているのはインストラクターと私だけであった。「ワン、ツー、スリー」というカウントはいっそう長く感じられた。そして、「ファイブ」を過ぎた時点で、なんとインストラクターがバランスを崩して持ち上げていた足を下ろしてしまい、苦笑いをしている。
この時点で、できているのは私ひとりとなった。スタジオ内のあちこちで「すごい!すごい!」とでも言っているのであろうか、ちょっとしたどよめきが起きている。そして、何とか無事にセブンカウントを終え、ちょっとした優越感を味あわせてもらった。
60分のレッスンが終わると、全身ビッショリである。この日は、とても他のレッスンを受ける気持ちにはなれなかった。
また、出た分以上の水分を「ビール」で補給したことは言うまでもない。

 


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