四方山話

       

タイ・マレーシア フィットネス紀行/四方山話




チャイナタウン

 夜、宿のベッドに横になっていると、少し離れたところから「バッ、バッ、バッ、バッ、バーン」と花火か何かの音が聞こえてきた。「何だろう?」とは思ったが、特に気に留めるほどでもなかった。
  翌日、レストランの前を通ると、シンバルのような楽器の音に合わせて、獅子舞のような踊りをしている。そう、チャイニーズ・ニューイヤー(春節)である。中国系の人たちの元旦で、1年で一番めでたい日である。
  つまり、昨夜の音は爆竹の音であった。確か、本国では爆竹は禁止されたようなニュースを耳にしたことがあるが…。まあ、タイだから適量だったらOK,OK。
 また、BTS高架鉄道のオンヌットの駅のすぐ横にある「テスコ・ロータス」というスーバーの駐車場では、お揃いの衣装を着た人たちが、立った状態での人間ピラミッドを作っていて、一番上の4段目には4、5歳くらいの女の子が上がり、周りにいる観客から盛んに拍手を受けていた。
  宿に戻るとスタッフから「チャイニーズニューイヤーが始まった今日土曜日は、にぎやかなのでチャイナタウンに行ってみたら。」と勧められが、あいにく受けたいレッスンがあった。そこで、翌日の日曜日に地下鉄に乗って出かけてみた。
  私の宿はBTS鉄道のアソーク駅、地下鉄のスクンビット駅から徒歩3、4分のところにあり、どこへ行くにも非常に便利である。
  チャイナタウンにも地下鉄のスクンビット駅から6つ目の最終駅のフアランポン駅で下車し、徒歩10分程度である。
  広場には特設会場なども設置されていたりして、テレビ局のクルーなども来ていた。何か催し物もあるようであったが、それが何なのか、またいつ始まるのかも分からなかった。
  また、歩道にはその催し物を見ようという人たちが腰を下ろし、イスに座ってお土産を売る人や企業の販促用のテントなども設置されていて、通り抜けるのも一苦労。
  「チャンビール」のテントを発見。机の上にはなんと紙コップが並べられているではないか。「おお、ビールの試飲ができるのか?!」と喜び勇み手に取ると、無色透明の液体。聞くまでもなくビールでないことは明らか…、ガックリ。
  おまけに、雲ひとつない晴天で、確実に「30度+α」になっている。のどの渇きを癒そうと「ビール補給所」を探したが、全く見つからず。お正月なので閉店しているところがほとんど。
  特設会場で行われるイベントが始まるまで待とうなどという気力はレベル「ゼロ」状態、それどころか、「ビール補給」の黄色いランプが点滅し始めた次第である。
  結局は何かを見たわけでもなく、ただ人ごみを見に行っただけ。そこで、黄色いランプが赤になる前に、早々に地下鉄の駅まで引き上げることにした。
  歩き始めて2、3分もしないうちに、お腹がゴロゴロ鳴り出してきた。「まずいな。」と思っていると、だんだんと痛みを覚えるようになってきたのである。また始まってしまった。右手でお腹を押さえつつトイレを探したが、途中の商店や食堂は春節で閉店状態。
  それでも、何とか地下鉄のフアランポン駅の手前の交差点の信号までたどり着いた。痛みもだんだんと増してきて、地下鉄の駅に行こうとしたが、左手を見ると、長距離列車のフアラランポン駅があった。ここは以前に行ったことがあり、なじみの駅である。
  どちらにしようか迷った。「清潔さ」でいうと、もうこれは地下鉄になるが、利用人数からすると、鉄道の駅が圧倒的に勝るはずだ。まあ、地下鉄の駅にトイレがないということはないだろうが、「確実さ」を取り、鉄道の駅を目指した。
  駅構内は長距離用とあって結構広く、前回も利用したと思われるトイレの場所は、もちろん全く記憶になく、探すのに1分くらいはかかった。
  しかし、普段、鍛えているおかげで、肛門括約筋が何とか緊張を保ってくれた。
  トイレは有料であった。2バーツ払って中に入ったが、なんと開いているところはなく待っている人もいるぐらいであった。「選択をあやまったかな?」といやな予感がしてきたが、もちろん、いまさら地下鉄の駅に行くことはできない。
  「早く空いてくれ、空いてくれ!」と念じていると、丁度、目の前の扉が開き、人が出てこようとしたので、それと同時に身体を中に滑り込ませ扉を閉めた。
  速攻で便座に腰掛け、何とか難は逃れた。「ハ〜」と一息つき、しばらく恍惚状態。が、落ち着いてきたのであたりを見回したのだが、あるものがないのに気が付いた。「紙」がないのである。キョロキョロと見回したがどこにもない。天井を見てもだめ。「入っていてくれ!」とデイパックの中を探してみたが、だめ。
 お金を取っておいて、この状態である。便器の横にはかごが置いてあり、前の人たちが使った汚れたティッシュが入っている。多分、排水の状態が悪いので、便器にトイレットペーパーは流していないのであろう。
  「さて、困った。どうしたものか?」と思いながらも、脳細胞はほとんど休止状態である。ただ、ずっと便座の上に腰を下ろしているわけには行かないので、自分なりに選択肢を考えてみた。

   @そのまま何もなかったかのように、パンツとズボンをあげる。
   A前の人たちが使ったティッシュを選別して再利用する。
   B一度流して、次に便器に溜まった水を利用し、不浄の手で「ピチャピチャ」とお尻を洗う。
   C幸いなことに、ポケットにバンダナが入っているので、それを使用し捨ててしまう。

  @は「ウン○君」が健康な状態であればよいが、かなり軟弱な状態なので、なかなか勇気を必要とする。
  Aだが、環境の点では「再利用」ということで良いのかもしれないが、これはかなり根性がいる。いや、ただの「根性」で済む問題ではない。「ド」をつけなければならない。そう「ド根性」が必要だ。
  「かごの中に手を入れる。」「ティッシュを選別する。」「お尻まで持ってきて、フキフキする。」と3つの高いハードルが待っている。自分のそういう姿を想像しただけでも「オエッ!」となりそうだ。
  とりあえず、「そうしなければ、死んでしまう。」という時の最後の手段に取っておくこととする。
  さて、Bだが、一応選択肢にしてみたのだが、どのようにしたらよいのだろうか?「一度流してから、次の水が溜まる」までは全自動だが、問題はその後である。まさか、水が溜まった便器に、便座をあげてお尻ごと突っ込むわけにはいかないだろうし、かといって、スクワットをやるがごとく、空気イス状態で静止して、右手を便器の中の水のほうへ伸ばしても、到底届くようには思われない。(届くのであれば、普段のトレーニングの成果が出せるのであるが…、残念!)
  可能性があるとしたら、右手を便器水の中に突っ込み、こぼれないように水を汲んでお尻まで運ぶようになると思うが…。
  いろいろと検討したが、一番無難なのがCである。バンダナ君にはいろいろ世話になり申し訳ないが、ここで最後の重大な使命を与え、お別れをすることにしよう。それが二人にとって後腐れない別れ方であるはずだ。
  と、私はズボンの後ポケットに入っているバンダナを取ろうとしたとき、あるものが目に入ってきた。「ウムム、これは使えるかもしれない!」とひらめいたのである。
  それは、よくよく考えてみると、タイではほとんどの便器の横についている。簡単に説明すると、用を済ませた後、便器などを汚してしまった場合に使用する「水鉄砲」である。
  もちろん、「鉄砲」の形状をしていないが、水が出るノズルにレバーが付いていて、そのお尻がホースで水道と結ばれている。レバーを握ると、勢いよくノズルの先から水が出るので、結構、しつこい汚れでも落とすことが可能。
  これは簡易ウォシュレットになりそうだ。私は便器の後ろの壁にかかっていたレバー付ノズルを手に取り、便器の中に向けて、レバーを握ってみた。「ジュ、ジュ、ジュ、ジュー」と勢いよく、ノズルの先から水が出て行った。
  「よっしゃ!」とノズルの先を肛門様に向け、少しずつレバーを握っていった。水の勢いも少しずつ増して行き、晴れて肛門様とご対面となったときには、水の冷たさに身体がピックッと反応したが、少しするとそれが快感になってきて、スロットル全開状態で、汚れもすっかり落ちていってしまった。
  その後は、バンダナ君がすっかりとお尻の水滴をふき取ってくれたので、きちんと折りたたんでズボンのポケットに戻してあげ、トイレを後にしたのである。
  この日は、チャイナタウンでの収穫はなかったが、「外出するときはティッシュを忘れるべからず!」という大切な教訓を学んだのであった。


 

チャイナタウンの中心部に通じる通りにて。通りにはチェイニーズ・ニューイヤー(春節)を祝う垂れ幕が飾られていた。



チャイナタウンにある寺院にて。みなさん、赤のシャツを着て決めています。


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