プーケット空港からビーチまで
プーケット国際空港からホテルの予約を入れていたカタビーチまではタクシーにするつもりであった。事前の情報では交通機関はタクシーしかなさそうで、料金は500バーツ、日本円で約1,700円。距離としては約50kmなので、もちろん日本に比べればはるかに安いが、バンコクと比べると明らかに2倍以上の料金である。
しかし、唯一の交通機関であれば、仕方がない。500バーツの出費は覚悟していた。
予定よりも40分ほど遅れて私が乗ったone-two-go airlineの飛行機(機体はJALの お下がりで、いたるところに「JAL」とうロゴがあり、英語と日本語の案内表示である。)はプーケットの国際空港に到着した。
荷物を受け取り、途中で「タクシーか?」などとかけられる声は一切無視して、タクシー乗り場に向かった。
「タクシーか?」
「カタビーチまで行きたいのだが…。」
「650バーツだ!」
うーん、事前の情報とはかなり違っていた。
「高いな、500じゃないのか?」
「今はハイシーズンなので650だ!」
どうしようかと迷っていると
「ミニバスだと180バーツだ。」
「なんだ、安いのがあるのではないか。最初から言ってくれればいいのに。」
などとぶつぶつ言いながらチケットを購入し、日本製の10人乗りくらいのワンボックスカーに乗り込んだ。10分もすると座席はビーチに向かう旅行者で埋まり、空港を発車したのである。
20分も乗ったであろうか、バスは幹線道路沿いの2階建ての小さな建物の前で止まった。
「なんだ。なんだ。どうしたんだ?」などと思っていると、1階の旅行会社みたいなオフィスから女性が出てきて、
「オフィスの中に入ってバスのチケットを見せてくださーい。」
と言っているではないか。「なんで、またわざわざチケットを見せなければならないんだ?」などとも思ってみたが、そういうシステムになっているのであればいたし方がない。車を降り、オフィスに入ると、男性に空いている席に案内された。
ポケットに入れておいた乗車券を彼に渡したが、チラッと見ただけで、デスクの脇においてあったアルバムを取り出し
「ホテルの予約はしてあるのですか?」
と問いかけてきた。
「はい。Kata Hill Residenceと言うホテルを予約してある。」
と答えると、アルバムをパラパラとめくり
「明日はどこに行きますか。〜島へのツアーはどうですか?今だと、…バーツで申し込むことができます。」
「まだ、明日の予定までは…。」
アルバムの別のページをめくって
「ここの島は映画007の撮影が行われたところで、…バーツでいけます。他の旅行代理店では提供できない料金です。どうですか?」
「とにかくホテルについてからゆっくりと考えたいんだけど…。」
と答えると。向こうも、これ以上続けても見込みがないと思ったのか
「分かりました。私の名刺を渡しておきます。行きたいところができたら電話を下さい。あなたの名前を教えてください。」
と名刺を受け取った。一応、名前は告げたが、ホテルについてからもしつこく営業攻勢があったらやっかいだなという不安もなきにしもあらずであったが、それ以降彼から電話がかかってくることはなかった。日々、営業で忙しいのであろう、きっと。
しかし、一体どうなっているんだ?こっちはお金を払って乗車券を購入しているというのに…。このオフィスの中にはデスクが6つぐらいあったが、それぞれのデスクに担当者がいて、例のアルバムのページをめくりながら激しく営業光線を浴びせかているではないか?ある意味では非常に活気に満ちていた。
私のバスの他の同乗者は、みなホテルの予約を入れずに来たようである。その中で、このオフィスでホテルの予約を入れたのが韓国から来た2人の青年であった。もともと宿泊予定のゲストハウスがあって、そこの予約をこのオフィスで入れたようである。
他の4人の欧米人はビーチについてから決めたいということで、自分で歩いて探すようであった。
私たちは再びミニバスに乗り込み、ビーチへと向かった。車は、プーケットで一番大きなパトンビーチまで来て、韓国人の青年が予約を入れたゲストハウスの前で2人を降ろした。残りの西欧人たちは「ビーチ沿い道路で降ろしてくれ。」とドライバーに告げている。
彼らをビーチに平行した道路で降ろすと、残りは私一人となる。カタビーチまで行くのは私だけであった。ドライバーは助手席を手でたたいて、「ここに座れ。」と言っているので、席を移動した。
パトンビーチからカタビーチまではしばらくあるようである。その間、私の横でハンドルを握っているドライバーはいろいろ話しかけてきた。
「今は一番込んでいる時期なんだ。満室のところもたくさんあるから、宿を探すのは苦労するよ!まあ、ビーチから遠いところだったら話は違うがね!でも、せっかくビーチまで来たんだから、ビーチのそばがいいだろ?!」
私も、ネットで予約するのでさえ一苦労したので、「うん、うん」と彼の言うことを聞いていた。
パトンビーチから20分くらい経ったであろうか、車は別のビーチをいくつか越え、カタビーチまでやってきた。
「ビーチの途中で降ろされても、宿を探すのは大変だろうな。」と少し不安に思っていたが、ビーチのはずれの丘の中腹にある私の宿の前まで送ってくれたのである。
後日談ではあるが、ビーチから空港まではタクシーを利用した。日曜日の出発であったが、前日の土曜日にタクシー乗り場(「乗り場」と呼べるような代物ではなく、メインストリート沿いに、壁のない掘っ立て小屋みたいなものが建っていて、そこにおかれているベンチに暇そうに寝転んでいる。)まで行き料金をたずねると、600バーツとのこと。
当日、その乗り場まで向かう途中、2箇所ほどタクシーの運ちゃんがたむろしている場所があって、目と目が合うと「タクシー?」と声をかけてきたので、
「空港まで、いくら?」
「700だ。」
「No!」と一言つげその場を去った。向こうもそれ以上私を相手にすることもなかった。
次の乗り場で「タクシー?」と声をかけられたので、料金を聞くと800とのこと。もちろん、乗るわけはないので「No,No!」とその場を去ろうとしたら「OK,OK,700」と運ちゃんの一人が追いかけてきたが、「No!」と言って相手にはしなかった。
さて、昨日、料金を聞いた場所まで行くと、3人の運ちゃんが暇そうにベンチに寝転んでいてが、私が近づいてくるのが分かると「タクシー?」と聞いてきたので、
「うん。空港まで600で、OKだよね?」と聞くと
「800だ!」というではないか。昨日、料金を聞いた運ちゃんがいるかどうかは分からなかったが、
「おい、おい、昨日は600だと言われたぞ!」
「ダメ、ダメ!600なんかでは誰も行かないよ。Sorry!」
これだよ!この調子だから参ってしまう。さっきの所に引き返す気にはなれなかったので、
「分かった。700でどうだ?あそこの乗り場で700で行ってくれると言っていた。」
応対してくれた運ちゃんは自分では行く気がない様子で、隣のベンチに寝転んでいる運ちゃんに「おまえ、行ってやったら?」みたいな感じで話しかけているが、この運ちゃんもその気がない様子で、寝たまま首を横に振り、車を磨いていた運ちゃんに「おい、どうだ、空港まで700だってさ。」とでも言っているようであった。会話から「700」というタイ語だけは聞き取ることができた。
この声をかけられた運ちゃんは「700かよ。しょうがねーな。」みたいな反応をしたかと思うと、トランクを開けて荷物を入れろと言っている。とりあえず、ホット一息をついたのであった。
プーケットにはメーター制のタクシーがないようである。(カタビーチしか行っていないので他の場所は分からないが、そんなには状況は変わらないと思われる。)よって、乗る前には行き先を告げ、料金の交渉から入らなければならない。場合によってはエネルギーを必要とするのである。