商魂たくましき、インド人たち。
「Hello, my friend. How are you?」彼の店の前を通ると必ずこう言われ握手を求めて来る。彼はインド系タイ人の洋服の仕立て屋だ。しかし、バンコクでもここプーケットでも、なぜかインド系の人は「仕立て屋」なのだ。非常に不思議である。インド系の人はそんなに裁縫が好きなのだろうかと思ってしまうほど、「仕立て屋=インド系」である。
最初に声をかけられた時はこんな感じであった。
「やあ、どこから来たの?」
「日本からだよ。」
「ナイスボディをしているじゃないか?映画か何かを作っているのか?」
私は最初、彼が使ったpicture(映画)という単語の意味が分からなくて、「pictureって?」と聞き返したら
「ほら、ジャッキーチェンとかが出ている、アクションの…」と言ってきたので理解ができたが、ゴマスリスリ状態である。「ここまでゴマをスリスリされるとどうなんでしょうね?」などど思いながらも、悪い気はしないものである。その心理状況を彼らは巧みに利用しているのだ。インド系タイ人、あなどれん!
「どうだ、プーケットに来た記念にスーツのオーダーをしないか?」
とセールスをしてくる。「プーケットに来た記念=スーツ」の組み合わせが理解できないが、そんなことは彼らにとってどうでもいいことで、とにかく売れればよいのだ。
しかし、こんな暑いプーケットに来て、スーツをオーダーする人がいるのだろう。非常に理解に苦しむ。
毎日のように彼の店の前を通っていた。そのたびに、声をかけてくるので
「商売の方は順調なのか?」
と聞いてみたら
「とってもうまく行っているよ。」
との返事だったが、お客さんが入っているのを見たことがない。
この手の店では、その前を通るたびに声をかけられた。もちろん、それは私に特に興味を示したわけではなく、道行く人に片っ端から声をかけているのである。商売になれば、別に誰でも良いのだ。
別の店で
「ちょっと、ちょっと、2分ほど時間くれないか。聞きたいことがあるんだ、セールスなんかしないからさ。」
と声をかけられた。別に急いでいるわけでもなかったので
「別に構わないけど…。」
と話を聞いていると、何のことはない、たわいもない話をしたかと思うと
「シャツをオーダーしないか?」
とすぐセールスが始まる。
まー、そんなに目くじらを立てるほどでもない。ついでに彼に
「なんで、君たちインド人は仕立て屋なのだ?」
と言うと
「オレはパキスタン人だ!」
との答えだった。さすがに、インド人とパキスタン人の区別はできない。「Sorry!」と言い「なぜパキスタン人は…」とまでは聞けなかった。
最後まで店内に入ることはなかったが、今頃も道行く人に「Hello, my friend!」と声をかけているに違いない。