小僧でも、オジさんは容赦せんぞ!
バンコクでもここプーケットのカタビーチでも、お土産を扱う露店はいくらでも目にすることができる。Tシャツや水着などの衣類から、民芸品、貝細工、皮革製品、ロウ細工、ぬいぐるみ、サングラス、時計、ナイフなど、その種類も豊富である。
ただ、その土地特有というものがあまりない。つまり、バンコクもプーケットも同じようなものを扱っているのである。
プーケット到着初日の夜に、夕食を済ませ、通りを散策しているときに、目に留まったのがあった。ガラス製品である。以前、訪タイしたときにも同じものを買ったのを思い出した。たぶん、前回はバンコク(プーケットは今回が初めてだが、前回はチェンマイに行っている。)で購入したと思うのだが、記憶が定かではない。
今回、プーケットに来る前にバンコクにしばらくいたが、同じガラス製品を扱った露店は1件も目にしなかった。
そのガラス製品の中でも、本当の貝殻を使ってヤドカリを模したものがお気に入りであった。小、中、大、特大と4種類くらい大きさがある中で、一番小さいものがかわいらしい感じがした。
値段を聞くと、一番小さいもので100バーツ、続いて150、200、250とのこと。プーケットにはまだ数日滞在する予定なので、慌てて購入する必要は全くなく、そのときは適当に聞き流して、翌日になると、聞いた金額すらあやふやであった。
別の場所で同じ硝子細工を扱っているところがあり、金額を聞いたところ、一番小さいもので150と言われた。明らかに高い。
また、別の場所でも見つけたので、たずねると120との返事だったので「一番最初のところが一番安かったかな?」という印象があったので、プーケットを出発する前日の夜に、買うことを目的に一番最初のお店に再び向かったのである。
そこは、夜になると数件のみやげもの店が現れる、両側をレストランで囲まれた広場であった。
さて、目的の場所に着いた。向こうは日々、何百人という観光客を相手にしているので、当然、私の顔など覚えているわけもない。私のほうも、前回、金額を聞いたのは男性だったことは記憶しているが、どのような男性だったのか全く覚えていないような状況であった。
商品の前で、腰を低くして品定めをしていると、「どうですか?」と声をかけられたので、見上げると、高校生ほどの男の子だった。
「いくつか欲しいのだけど、この一番小さいものでいくら?」と聞くと
「一番小さいものは100バーツで、これが150、それからこれが200で…」との説明に、前回聞いたのと同じ金額かなという印象を持った。まー、とにかく、同じ商品を扱っている3軒の中で一番安いのは確かなようである。
ガラス製品ばかりを扱っていたが、私が欲しい「ヤドカリ君」は、各サイズ合わせて全部で20個ほどであった。
その中でも、お気に入りの「小」は半分ほどであったが、商品の中にはガラスの足が取れているものや、貝殻の一部が欠けているものもあったので、そんなに選択肢があるわけではなかった。
「小」を4つ、「中」を1つと、ガラスだけでできたハリセンボンを1つ選び、「いくら?」と彼に尋ねた。
彼は電卓片手に計算を始めた。「小が100で、それが5つだから500、あとそれに150の中が1つで、全部で650」という感じで、私に電卓ではじいた数字を見せたのである。
一つ一つの金額は分かっていたので、電卓がなくてもそのくらいの足し算は私にもでき、私の頭の中の「650」という数字と一致した。
さー、問題はここからである。向こうが提示したそのままの金額で買うのは、あまりにもバカバカしいし、そういう行為は相手に対しても大変失礼なことで、「値引き交渉」という「ゲーム」をしないといけない。向こうもそれを期待しているのである。
「オジサンは、相手が小僧だからといって容赦はせんぞ!」と意気込み、副腎皮質から出るアドレナリンの分泌量も徐々に増え、臨戦態勢を徐々に取りつつあった。
でも、待てよ。あまり、感情的になっても大人気ないし、「日本人っていうのは…」という印象を若いうちから持たれても、日タイの友好関係にヒビが入りかねないので、深呼吸を何度か試み、呼吸を落ち着かせた。
はなから無理な数字を提示するのも常識に欠けるので、「500で行こう。そうだ、500がよい。すると、向こうは一応Noと言ってきて、600と言うに違いない。そこで、私もNoと言って550と言って、向こうもちょっと迷ったような振りをして、しようがないなー、みたいな感じで、OKサインを出してくるはずだ。」と自分なりにシミュレーションをしてみた。
彼が持っている電卓を手に取り、650の数字をクリアし500と打って、彼に見せ、彼がどう出てくるか身構えた。
すると、特に躊躇する様子もなく「OK!」とうなずいている。
「あら?」いう感じで、一気にアドレナリンの分泌はゼロになった。しかも、うれしいことではあるのだが、「もう一つおまけに、小さいのサービスね。」とか言って、小さなヤドカリ君を差し出すではないか。
「小僧、この日本から来たオジサンを馬鹿にしているのか?!」とまでは言わなかったが、あまりにも予想していた事態とは違っていた。
しかし、そうなってくると「初めからもっと安く言っておけばよかったかな?」という思いが浮かんでくるが、いくらなんでも私が提示した金額で「OK」と言っているのに、そこから「いや、400しろ!」とかは口が裂けても言えない。明らかなルール違反である。国際ルールに反する。
かくして、私は、ヤドカリ君の小を5つと、中を1つ、それとハリセンボンを1つ、割れないように細かくシュレッダーされた新聞紙の入っているダンボール箱に入れてもらって、宿に向かうのであった。
ガラス細工のおみやげ。ただガラスだけでできたものもあったが、私のお気に入りは本物の貝殻つきの「ヤドカリ」である。 |
私がお土産に買った「ヤドカリ君」たちです。一番右は、ガラスだけでできたハリセンボン。 |
石鹸を花形にカービングして色をつけたもの。バンコクの露店でも売っているのを良く見かける。売っている人がその場で削っていたり、色を付けていたりすることもある。 |