【イムズハウスからジョングノサンガ駅にかけて】
2番目の宿であるイムスハウスの最寄り駅はアングク(安国)駅であるが、フィットネスクラブから見て一つ手前のジョングノサンガ駅も十分に徒歩圏内である。イムスハウスの玄関からジョングノサンガ駅の地下鉄に乗るホームまで10分で行くことができるので、アングク駅とそんなに変わらないのではないだろうか。
よく旅行ガイドブックなどに載っている「駅から徒歩〜分」というのは、ここソウルの地下鉄の場合、ちょっと注意しなければならないような気がする。
想像するに、その「徒歩〜分」というのは地下鉄を出たところから(地上に上がったところ)の所要時間で、地下鉄に降りる階段からホームまでがけっこう時間がかかったりする。特に路線が重なっている駅などでは、改札を通り過ぎてからでも「まだ歩くの?」という場合もある。
夕方、イムスハウスからフィットネスクラブに向かう場合は、アングク駅ではなくジョングノサンガ駅を利用した。駅までの車道の両脇には、焼肉店や鮮魚を専門に扱ったレストラン、カラオケ、韓国風お好み焼き(チヂミ)を扱った店など主に飲食店が中心だったが、中には韓国の民族衣装や民族楽器を扱ったり、トロフィーや楯などを専門に扱った商店なども何軒かあった。
そして、このジョングノサンガ駅には地下鉄の1号線、3号線、5号線と3つの路線が乗り入れているので、駅周辺も賑やかである。
通常の飲食店はもちろんのこと、ファーストフードやカフェ、または映画館などもビルの中に入っていたりするのであるが、何と言っても宝石を扱った店舗の多さには驚かされてしまう。そう、この辺りは「宝石の街」なのである。(電柱などにも英語で「宝石の街」という案内板がかかっているくらいである。)
もちろん、宝石などに何の興味もない私は、店の中をのぞくなどということはしなかったが、いやでもその存在に気づかされてしまう。
とにかく、数が多い。ちょっとしたビルのワンフロアが全て宝石店だったりする。ただ、大型の店舗はなく、1坪から2坪といった小さなものがところ狭しと並んでいる。
また、駅周辺には夜になるとあちこちに屋台が出ていて、特に地下鉄に通じる階段の出口の周辺には多い。この辺りの屋台は魚介類を扱っているものが多く、屋台の横には大きな水槽が置いてあった。
この屋台の横に置かれた水槽だが、上部3 分の1くらいはプラスチック製の容器で4つくらいの小部屋に区切られている。つまり、上部の小部屋とその下の大部屋に分けられていて、それぞれの部屋に種類ごとに魚介類が入れられている。
大部屋にはイカが元気に泳いでいるが、底ではホタテの様な貝が口をパコパコやっている。また、上部はタコ部屋、ホヤ部屋、ナマコ部屋などになっていて、好きなもの選べばその場でさばいてくれる。
また屋台のほうにもガラスケースの中に氷が敷き詰められていて、その上に鶏や豚などの肉類、うなぎ、ししゃもなどの魚類、またハマグリなどの貝類が並べられ、脇にあるコンロで調理してくれる。
メニューなどはないが、言葉が通じなくても食べたいものを指差せば通じる。飲み物だってビールや焼酎のビンが並べられているので、同じである。
システムや料金はどこも同じみたいだ。飲み物はビールの中ビンで3,000ウォン(約400円)、大ビン5,000ウォン(約667円)、330ml(?)の焼酎が3,000ウォン(約400円)。食べ物は、もちろんものによるのだと思うが、だいたい10,000ウォン(約1,333円)のようである。
決して安くはない。日本の屋台で飲むことなどめったにないので、詳しいことは分からないが、日本とそんなに変わらないのではないだろうか・・・。
こちらの人はビールを飲む人ももちろんいるが、特に屋台では、圧倒的に焼酎を飲んでいる人のほうが多く、経済的にも焼酎のほうに軍配が上がる。
で、その焼酎の飲み方であるが、小さなグラス(大きさはお猪口よりも少し大きいくらい)を使ってストレートで飲む。水で割っている人など皆無で、女性でも同じ。ちなみにアルコール度数は20度となっている。
一応「お通し」みたいなものがあり、これも、ほぼこの辺の屋台であれば同じみたいで、スープにキュウリとニンジンのサラダがついてくる。
「サラダ」と書いたが、いわゆるレストランなどで出てくるような洒落たものではなく、ぶった切りにして皮をむいただけのも。それをコリコリとウサギのようにやるのである。これがけっこう料理などに合ったりする。特に、メインの料理が辛いと、キュウリやニンジンがその料理の辛さを和らげてくれる。また、「お通し」としての料金は請求されない。
日曜は早めの時間のレッスンを受けるので、平日よりは宿に戻る時間が早く、7時くらいにはコンビニで弁当、カップめん、ビールなどを買って戻っている。
テレビでNHKのBS、ディスカバリーチャンネル、または映画専用のチャンネルなどを見ながら夕食を済ませるのだが、10時くらいには「暇だからその辺でもブラブラするかな。」となる。
「その辺」というと宿からジョングノサンガ駅あたりになるのだが、駅までは車道沿いの歩道を行くか、またはその車道と並行して走っている道幅2mにも満たない路地を行くかのどちらかになる。この狭いほうの路地だが、駅手前で焼肉店が軒を連ねていて、あたり一面にいい匂いを振りまいている。
この路地の焼肉店の特徴は、店外にもテーブルやイスを並べ炭火を使っているというところである。お店によっては店外にしかテーブルがないところもあるようだ。何度か入ってみようと店の前をうろちょろしたのだが、結局は断念してしまった。
その理由の一つが、壁に張られているメニューが全てハングルであったこと。そしてもう一つが、一人で食事をしている人など皆無で、各テーブルでは数人がワイワイガヤガヤと焼肉を突っついているのである。
メニューに関しては、もしかしたら英語のメニューもあったのかもしれないし、また、いつも持ち歩いている「地球の歩き方」には焼肉店で扱っている肉などの種類が写真付で日本語とハングルで表示されているので、注文に関しては「地球の歩き方」に掲載されている写真を指差しながら何とかなった可能性は多いにある。
それよりも、あまりにも賑やかにやっているところに一人でぽつんと席についているのに抵抗があり躊躇してしまった。たまらなくいい匂いが漂ってくるのだが・・・。
これらの焼肉店からジョングノサンガ駅の地下に通じる階段の出口までは1分もかからない。そこはちょうど交差点になっていて、その角にはいつも屋台が何軒か出ていた。その内の1つの水槽をのぞいてみた。
イカが元気に泳いでいるではないか。そのうちの1匹と目と目が合ってしまった。「食べてくれ!」と訴えかけている。こうなると「イカ刺しが食いてー。」ということになり、ご主人と思われる45歳前後の男性が近づいてきたので、私は水槽のイカを指差し、右手の人差し指を「1人前」ということで立てた。
ご主人は「分かった」とうなずいて、空いているテーブルを指差し、「座ってくれ。」と言っている。適当なところに腰を下ろしたが、プラスチック製で背もたれもないので、決して座り心地は良いとは言えない。
もうこの時点で私が韓国人でないということは分かっているようである。すぐに私のテーブルにはスープとキュウリとニンジンが運ばれてきて、「飲み物は?」という感じで手にコップを持ったつもりで、口に運ぶジェスチャーをしている。
「ビア(Beer)」というのだが、どうもこの英語の発音が通じない。ご主人はほとんど英語を解さないようである。仕方がないので、屋台の前にあったビールの空き瓶を「これ、これ。」という感じで手に取ると、ご主人は右手の親指と人差し指で「OK」マークを作ってくれた。
ビールをチビリチビリやっていると注文したイカ刺しが中皿に乗せられて運ばれてきた。サニーレタス(たぶん)と思われる青々した野菜の上に、さばかれたばかりのイカが乗っている。足などはタコ船長のデイビージョーンズほどではないが、ニョロニョロとまだ動いているものもある。そして、皿の端には生ニンニクとグリーンの唐辛子のスライスしたものが添えてあった。
また、イカ刺しの脇には「サービスだ」とホヤ刺しも乗っていた。そして、一緒に運ばれてきた小皿の中には、日本で売られている「キムチの素」のようなドロドロとしたものが入っていて、「これにつけて食べろ。」とジェスチャー交じり言っている。
「辛かったら嫌だな!」と思いながら恐る恐るイカ刺しにその赤いタレをつけて口まで運んだのだが、「辛さ」は見た目ほど強くなく「甘辛い」と言ったところ。ただ、本音を言うとワサビしょう油があれば言うことがなかったのであったが・・・。
イカの種類には詳しくないが、たぶん「ヤリイカ」ではないかと思われた。表面の薄っぺらい膜はむかず、内臓を取って刺身にしたもので、決してまずくはないが、欲を言うと「スルメイカ」のように「甘さ」があったら最高であったろう。
この日は日曜の夜ということもあって、お客さんもまばら状態。ご主人も暇そうにしている。次に「サービスだ。」と言って持ってきてくれたのが「殻付の貝」であった。ホタテのような形をしているが、大きさは手の平に収まる程度。
あらかじめレモン汁みたいなものがかかっていて、ご主人がジェスチャーで「スプーンで肉の部分を殻からはがして、一気に飲み込め!」といっているので、指示されたとおりにするが、なかなかの美味であった。
韓国語で話しかけてくれるのであるが、何を言っているのか全く分からなかった。こっちはこっちで、一応、旅行前に「韓国語の会話」の本を購入してCDを聞いたりしたのだが、かなり細胞が死滅している脳のため、一向に覚えられない。「こんにちは」「さようなら」「こんばんは」などちょっとした会話でさえ繰り返しCDを聞くが、さっぱりである。
が、こっちにきてみると日常の簡単なあいさつの「こんにちは」「さようなら」「こんばんは」などはすべて「アンニョンハセヨ」で済んでしまうので、大助かりものである。
結局、覚えたのは、その「アンニョンハセヨ」と「カムサムミダ(ありがとう)」、「日本から来ました。(イルボネソワッソヨ)」、そして「オルマエヨ(いくらですか)」くらいなので悲しくなってしまう。
ただ、この買い物などでよく使う「オルマエヨ(いくらですか)」だが、発音自体は日本語式に発音しても通じるので相手も何を言っているのかは理解してくれるが、通常の相手の答えとしては「〜ウォンです。」となり「〜」の部分は数字なので、数字が頭の中に入っていないと何て言ったのか分からないことになる。
だから、場合によっては、最初から「ハウマッチ?」と英語を使ったほうがスムーズにやり取りできる場合も考えられたりする。
話は少しそれてしまったが、ご主人の話しかけてくれる韓国語のほとんどを理解することができなかったが、「おいしいか?」くらいはジェスチャー交じりなので何となく分かるものである。私は右手の親指を立てて「うまいぞ!」と答えると向こうもうれしそうににっこりと笑ってくれた。
後は「日本から来ました。(イルボネソワッソヨ)」と言うと、向こうも「そうか、日本から来たのか。」という感じでうなずいている。まあ、さほどおしゃべりが得意でない私としては、その辺で十分である。
しかし、この屋台が出ている交差点だが、いつもホームレスが何人かたむろしている。この時期なので、たぶんダンボールを敷いて寝ているのだろう、交差点を通るたびにその姿を見かける。
私の後ろのテーブルのお客さんがお愛想を済ませ、ご主人がテーブルを片付けていたとき、そのホームレスの一人が来てお客さんが残した料理と焼酎をくれとご主人に言っているではないか。
ご主人は、急に険しい顔になってなにやらこのホームレスに何かを言っているが、ホームレスはひたすらに頭をぺこぺこと下げているだけ。
「しっかりと働いて自分で稼がなければだめじゃないか!」とでも言っていたのだと思うが、結局はご主人が折れてお客さんが残していったものを彼に差し出すこととなった。
ご馳走をゲットした彼は仲間が待っている反対側の交差点の角に行き、宴会の再開となった。
私はビールを2本空けると、運動の疲れやアルコールも身体に回り始めたのか、心地よい疲労を感じ、あくびがとまらなくなってしまった。
ご主人に「オルマエヨ(いくらですか)?」と言うと、指で「1」の次に「6」を作ってくれたので、16,000ウォン(約2,133円)を払い、「アンニョンハセヨ」とあいさつをし、宿に向かった。
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