6回も通ってしまった。

　さて、この屋台であるが、翌日にも足を運んでしまった。このときは奥さんと思われる女性と二人で切り盛りしていた。
　曜日の夜だったので会社帰りのサラリーマンでテーブルは埋まっていて、ご主人は私に気が付くとニコッと笑ってアゴでカウンターに座れといっている。
氷が敷き詰められたガラスケースの中に魚、肉、貝などが並べられた屋台の前の部分は一応カウンターになっていたので、そこに腰を下ろすが、屋台のタイヤの部分が邪魔をして足を奥に入れることができない。仕方がないので、股を開いて座るか、またはカウンターに平行して座るようにした。
ご主人は奥さんに「このお客さん、日本から来たんだってさ。」みたいな感じで話をしている。（会話の中の「日本」という単語だけは聞き取ることができた。）奥さんのほうも「へえー、そうなの。」みたいな感じでうなずいている。
　すぐにスープにキュウリとニンジンがカウンターの上に置かれた。私は最初に来たときに「サービスだ。」と言ってイカ刺しについていたホヤがおいしかったので、水槽の中のホヤを指差した。
ご主人は「分かった。」という感じでうなずき、横にいた奥さんに何か自慢げに話をしている。想像するに「オレが昨日サービスで出したのが良かったんだ！」とでも言っているのであろう･･･。
そして、空のビール瓶を手にとって「ビールだろ？！」と聞いてくるので、うなずくしかなかった。
電気も引かれているし、ガスなども使って調理をしているが、冷蔵庫のようなものはなく、鮮魚などを入れておく発泡スチロールの容器に氷が入っていて、そこに飲み物のビール、焼酎、コーラなどが入れられていた。
いつものように、ビールをチビリチビリやっているとホヤ刺しが運ばれてきたが、中皿の上に隙間なく乗っている。「こんなに食えるかな？」とも思ったが、決して残すことはないのである。
また、ご主人がガラスケースの中のうなぎの蒲焼を指差して「サービスだ、食べるか？」と聞いてきた。間違っても首を横に振るわけがない。私は大きく首を縦に振って「カムサムミダ（ありがとう）」と礼を言った。
しばらくして目の前に出されたうなぎの蒲焼は、日本の魚屋やスーパーで売られているものと形や味付けは全く変わらなかったので、違和感なく食すことができた。
結局、この屋台には計6回通うことになる。行くたびにサービスをしてもらい、色々な料理を食べさせてもらった次第。
　また、お腹がグーグーなっているときは刺身などでは足りないので、「うどん」を注文した。いつも出されたスープにめんと具が入っているものだが、スープ自体の味が少し薄めの「関西風」といったところで、あっさりしていてとてもおいしかった。
　屋台で飲んでいて気が付いたのだが、ガイドブックに「韓国の人はみんなでワイワイガヤガヤやって飲むのが好き」とあるように、一人で飲んでいる人など1回も見たことがなかった。
日本であれば、会社帰りの中年のサラリーマンがおでんなどを突っつき日本酒をチビリチビリとやっているところだが、こちらでは皆無である。
　また、これもガイドブックに書いてあったのだが、韓国では「割り勘」にする習慣があまりないようで、支払は一番年上の人がするのが普通のようである。そして、目上の人からお酌を受けるときは右手でグラスを持ち左手の指の部分を右手の肘の下に当てるのである。（コンビニなどでお釣りを渡すときも同じ）
また、目上の人の前では直接グラスを口に運ぶことはなく、わざわざ横を向いて手で隠すようにして飲むのであるが、ちょっと違和感はある。「いちいちそんなことをしていたら面倒くさいのでは」などと思ってしまう。
「割り勘の習慣がない」「目上の人が支払う」と書いたが、同年代で飲む場合の支払がどうなるのかは分からないが、何回か「ここはオレが支払う！」と言って一人が伝票を持ってレジに向かおうとしているときに「いやいや、その伝票をよこせ。オレが払う！」などと言い合っている光景に出くわしている。私だったら「ラッキー！」と大喜びをしてしまうのだが…。
　さて、帰国の前夜も屋台に出かけた。ご夫婦で忙しそうに働いている。勘定を済ませるときはご主人はテーブルのお客さんに呼ばれて焼酎を飲みながら話し込んでいたので、奥さんに「明日、日本に帰る。」と英語で伝えたがよく理解していないようだったので、右手の人差し指で自分のことを差し、韓国語で「イルボ（日本）」と言って、右手で、飛行機で飛んでいくジェスチャーをしたら、理解してくれたようであった。
奥さんが差し出したお釣りは受け取らずに、「カムサムミダ（ありがとう）」とお礼を言って、軽く握手をして宿に向かった。
　今回は夏前であったが、天候的にはほとんど夏と変わらないような日が続いた。今度は寒い時期に、ガラスケースや水槽にどのようなものが入っているのかのぞきに来るのも面白いような気がする。そのときは焼酎かな…。

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